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マルコフ行列の中の著者達: どの著者がもっとも人々に影響を与えたのか? (21)

前々回には,Berlin の人数と Potsdam の人数がいかなるものであっても,その無限回の操作の結果は一定に落ちつくことを見た.

この Berlin 600 人,Potsdam 400 人というベクトルはこの Matrix にとって特殊なベクトルであって固有ベクトルという名前がついている.このベクトルを図12 の上に書いてみると,図 13 になる.見事に固有ベクトル上に人口の分布が並んでいるではないか.
Figure 12: Population history with various initial conditions.
Figure 13: Population history of Berlin and Potsdam with $y =\frac{400}{600}x$ line.
固有ベクトル \(\vec{x}\)は matrix \(M\) に対して,
\begin{eqnarray*} M\vec{x} &=& \lambda \vec{x} \end{eqnarray*}
となる特殊なベクトルである.ここで \(\lambda\) はスカラ値である.このスカラ値にも固有値という名前がついている.

ここでは次式のように \(\lambda = 1\) である.
\begin{eqnarray*} M \left[ \begin{array}{c} 600 \\ 400 \\ \end{array} \right] &=& \left[ \begin{array}{c} 600 \\ 400 \\ \end{array} \right] \end{eqnarray*}
ここでのベクトルは定数倍しても変化しないので,
\begin{eqnarray*} M \left[ \begin{array}{c} 6 \\ 4 \\ \end{array} \right] &=& \left[ \begin{array}{c} 6 \\ 4 \\ \end{array} \right] \end{eqnarray*}
でもかまわない.この固有値も驚きの数である.左辺と右辺を見ると,一つのスカラ値が Matrix に対応しているように見える.この例での Matrix は 2x2 であったが,Matrix が何千次元であっても,やはり固有値という考えは利用できる.つまりこの固有値は matrix の何らかの特徴を代表している.私は何千次元という大きな matrix を直接理解することはとてもできないが,一つの数なら多少の感じはつかめる.

Matrix の方になにかあるということであるから,M を何度も掛けた時に,どうなっているかを見てみよう.

octave:2> M
   0.80000   0.30000
   0.20000   0.70000
octave:3> M^2
   0.70000   0.45000
   0.30000   0.55000
octave:4> M^3
   0.65000   0.52500
   0.35000   0.47500
octave:5> M^5
   0.61250   0.58125
   0.38750   0.41875
octave:6> M^10
   0.60039   0.59941
   0.39961   0.40059
octave:7> M^100
   0.60000   0.60000
   0.40000   0.40000

M を 100 回掛けた時に出てくるこの数は既にもう見たであろう.

この固有値と固有ベクトルを求める方法についてはこれ以上詳しく述べないが,興味ある読者は文献 [9] を参照して欲しい.ここで何度も掛けて一定の値になるのは,最大の固有値が 1 であったからであり,どんな行列でもそうなるわけではない.しかし,Markov matrix は最大の固有値 1 を持つことが知られている.

また,ここで述べた人口の変移と固有ベクトルの話は様々な文献に登場するものであるが,私の参考にした文献は [6]である.固有値に関しては[8] が面白かった.また,[9] は私の一番好きな線形代数の本である.


References

[6] Yoshio Kimura, ``Fun of linear algebra for freshman (Daigaku ichinensei no tameno omosiro senkeidaisuu,'' Gendai Suugakusha, 1993

[8] Kouji Shiga, ``30 Lectures of eigen problem (Koyuuchi mondai 30 kou,'' Asakura shoten, 1991

[9] Gilbert Strang, ``Introduction to Linear Algebra, 4th Edition,'' Wellesley-Cambridge Press,
2009

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